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日本酒スタイリスト 木村 克己
日本酒・目からウロコの話 7月号

「日本酒と器の関係 その2.酒を注ぐ」

色々な飲み物や酒を「器に注ぐ」ことを案外に無頓着に行なっていないでしょうか。今月はこのことについて考えてみたいと思います。

まず酒は計量、保存、運搬、展示などの目的で瓶に詰められて封(シール)がしてあります。これを飲める状態にするためには何らかの器に注ぎ移さなければなりません。瓶から直接に「ラッパ呑み」することも可能ですが、これはお酒の色艶や香り、口中での馥郁とした含み香やフレーバーのふくらみなどの楽しみを放棄することに他なりません。カップ酒を例外としてお酒は酒器に注いでその価値を発揮します。

それ以上に、酒を注ぐことは我国でも祭礼においては巫女が、ヨーロッパや中東では紀元前から王や皇帝に代わって酒を奉じる「献酌官」という神官がいたほどの貴い行為だとされていました。

また様々に工夫された日常使いの器から工芸品のような酒器に酒を注ぐにしても、注ぎ手は酒瓶や酌と酒器に全神経を集中させることが大切です。そうしなければ、お酒が的をはずれる、溢れる、だらだらと滴がたれる、まわりを汚す、器を損じるなどのリスクが伴ってきます。

注ぐことの留意点として、瓶口と器を当てたり接触させたりしないこと。
カツカツと音をたてない、器やガラス瓶の欠損を防ぐのがその理由ですが、もう一つは瓶口から出た酒が器に入るまでの滞空時間をとることと器の中でお酒が渦巻きを起こすなど、つまりお酒が空間のなかで「遊べる」からです。これは、お酒と空気中の酸素とを触れ合わせて、柔らかな酸化が期待できるからです。ただし、徳利と猪口の場合はこの限りではありません。

この機会に、小ぶりのワイングラスを用意して、お好みの日本酒をいろいろな注ぎ方で試してみて下さい。そろそろと注いだもの、ジャブジャブと注いだもの、グラスの上から細い糸のように酒を落下させるなどで、思いもよらぬお酒の味や香りの違いが生じる、そんな変化が実感できると思います。ぜひとも、同じお酒をもっとおいしくさせる「酒を注ぐ達人」になっていただきたいものです。

酒を酒器に注ぐのは極めて文化的な振舞い、儀式だと言えるでしょう。

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