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本格焼酎と泡盛
春秋謳歌 -南からの焼酎便り-
   
- 第14回 -
第14回 酒に美を求めて
 四川省は中国の蒸留酒、白酒(バイチュウ)の本場である。久しぶりに訪れた成都の白酒工場では、土間に掘った穴から固体の醪(もろみ)をスコップで掘り出す筋骨逞しい男たちの数百年前と変わらない光景が見ることができた。そこには近代化を拒否するかのようなたくましさがあった。
 近代化というのは酒の世界では必ずしも価値を生むものではない。清潔な工場で安全に良質の酒を造り出すことを否定するものはいない。だが、快適な環境で風邪をひかない子育てをするのが近代技術の求めるものであるとすれば、風邪に負けない頑健な体をまず作るのが伝統技術である。風邪はひかなくても、ひ弱な体と頑健な体から発せられるものは、何とも言われぬ微妙な濃淡の違いとなって表れてくる。

固体醪をスコップで掘り出し蒸留器へ(像)
固体醪をスコップで掘り出し蒸留器へ(像)
 蒸し風呂のような成都の街は微生物の繁殖しやすい土地柄である。この土地から激辛の四川料理が生まれ、燃え上がる火の酒が生まれ、発汗を促す生活の酒文化が生まれた。清酒の造れない鹿児島ではサツマイモから日本的な蒸留酒を生みだし、焼酎王国と呼ばれるようになった。中国の白酒も日本の焼酎も、風土のハンデイを、風邪に負けない頑健な体を作り出そうという独自の視点で克服してきたところである。
 食の安全、安心の大合唱の中で、何かが欠けていると思っていたが、裸で働く白酒工場の汗だくの男たちを見ながら、安全、安心に付け加えるものは「美」ではないかと思えてきた。「美」とは時代を超えて光輝くものである。地下の穴蔵に蓄えられ泥で密封された中から掘り出された白酒のもろみは蒸留されて、強烈な香気を放つ酒へと生まれ変わる。醜いアヒルが白鳥へ変身するような劇的な変貌である。そこには、発酵と蒸留の摩訶不思議な世界があり、酒造りの常識を覆し、人智を越えた「美」がある。

 何もかもが薄っぺらで、一皮剥けば本性を容易にかいま見ることのできそうな時代にあって、剥いても剥いても底の見えない奥深い世界は魅力的である。飲み込まれそうな悪魔的な美が潜んでいたとしたらなおさらである。
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