作法

トラディショナルにひや酒で乾杯

これから人の異動が多い季節になります。年末年始ほどではありませんが、歓送迎会や謝恩会など、お酒の席も増えます。

ところで、「今日は無礼講だ」という台詞を聞いたことがある方は多いと思います。上下関係を取り払って、自由にくつろいで酒を飲みましょうという意味ですね。まあ、そうは言うものの後で「この間の酒席でのあいつの振る舞いはなんだ。なっとらん」などと叱責されることもあるようですから、建前と本音をよく見分けなくてはいけません。

無礼講と敢えて言うからには、反対に礼を重んじる酒席もあるはずです。今や死語ですが、こうした酒宴は礼講といわれます。たとえば結婚式での両家の関係を契る杯事。お酒は神事とのかかわりが深く、最初に神様に酒を捧げてからそのお下がりを人間がいただくという構造になっています。この間は礼を尽くして酒を酌み交わします。その後で、「ここからは無礼講にしましょう」となるわけです。現在の酒席は礼講が省略されていきなり無礼講だけが強く残っているのです。

また、フォーマルな席はのお酒はひや酒になります。三々九度で、燗をつけてくれというのはいかにもおかしなことでしょう? こんなふうに酒宴の文化的な系譜をたどれば、最初に「とりあえずビールで乾杯しましょう」というのはチグハグだと気がつくと思います。酒宴のスタートは「ひや酒」。その後、無礼講になってから好きなものを飲むというのが、トラディショナルな作法なのです。